文献は「誰に、いつ、何をするか」を考えるために使います
網膜疾患では、OCTや眼底写真の異常があるだけで治療が決まるわけではありません。症状、視力、病期、病変の活動性、反対眼、全身状態、通院継続性まで含めて、研究結果を目の前の患者さんへどう当てはめるかが重要です。
黄斑上膜・硝子体黄斑牽引:OCTは重要ですが、画像だけで手術を決めない
2025年AAOのERM/VMT Preferred Practice Patternでは、多くの黄斑上膜は比較的安定し、治療を必要としない眼が多いことが強調されています。OCTは膜、牽引、中心窩の変形、嚢胞様変化、外網膜の状態を捉えるのに非常に有用ですが、手術適応は視力だけでなく、変視症、複視、両眼視の不自由さ、仕事や読書への支障を合わせて考えます。
VMTは自然解除することもあり、特に牽引範囲が狭い場合には経過観察が合理的なケースがあります。一方、症状が強く、黄斑構造の変形が続く場合には硝子体手術を検討します。術後はOCTの形が改善しても、変視症や両眼視の違和感が時間をかけて変化することがあります。


急性PVD・網膜裂孔:初回検査で裂孔がなくても、新しい症状を軽視しない
急な飛蚊症や光視症では、まず散瞳して周辺網膜まで観察し、裂孔・硝子体出血・網膜出血がないかを確認します。初回に裂孔がみつからない場合でも、遅れて新しい裂孔が生じることがあります。出血や強い牽引などリスク所見がある眼では早めの再評価を考えます。
一方、すべての患者さんを機械的に短期間で何度も検査するのではなく、初回所見と症状変化に応じて最適な間隔を設定します。新しい飛蚊症、光視症の増加、視野の影、急な視力低下があれば、予定日を待たずに再診することが重要です。
網膜裂孔も種類によってリスクが異なります。症候性馬蹄形裂孔などは治療対象となりやすい一方、無症候性の萎縮円孔などでは、周囲の網膜下液、牽引、反対眼の既往などをみて観察することがあります。
網膜剥離:黄斑の状態、排液法、PFCL、ILM peelingを症例ごとに考える
裂孔原性網膜剥離では、黄斑がまだ剥離していないのか、すでに剥離しているのかが視機能と治療の緊急度を考える大きな情報になります。裂孔位置、剥離範囲、PVR、水晶体の状態などで、硝子体手術、強膜バックリングなどの適否を考えます。
硝子体手術では網膜下液の排液法も論点です。2024年の系統的レビュー・メタ解析では、posterior drainage retinotomyを作る方法に比べ、既存裂孔からの排液やPFCLを利用する方法で術後黄斑上膜が少ない傾向が報告されました。ただし最終視力や一次復位率まで一貫した差が確立したわけではなく、解剖学的条件に応じた選択が必要です。
2025年の無作為化比較試験でもPFCLとposterior retinotomyで網膜復位や視力に大きな差は示されず、術後黄斑上膜はPFCL群で少ない結果でした。ILM peelingも術後黄斑上膜を減らす報告がありますが、PVRや再剥離を単独で防ぐ操作ではなく、すべての眼へ一律に行うものではありません。


黄斑円孔:OCTで径と牽引を確認し、閉鎖率だけでなく中心視の回復を考える
2025年AAO Idiopathic Macular Hole PPPでは、OCTが診断・病期評価・治療計画の中心です。円孔径、硝子体黄斑牽引、罹病期間などを考慮し、完全層黄斑円孔では硝子体手術とILM peelingが中心となります。
大きな円孔や難治例ではflap法などが選択肢になります。術後のうつむき姿勢は円孔径や使用するガス、術式によって必要性が異なり、「全員が同じ期間うつむく」という単純な考え方ではありません。OCTで閉鎖しても外網膜の回復には時間がかかるため、視力・変視症も含めて経過をみます。


糖尿病網膜症・DME:網膜症の病期と黄斑浮腫は別軸で評価する
2025年AAO Diabetic Retinopathy PPPでは、非増殖網膜症から増殖網膜症までの病期に加え、DMEの有無と視力を別に評価する考え方が重要です。眼底出血が少なくても中心窩DMEで見えにくくなることがあり、逆に網膜症が進行していても黄斑が保たれていれば視力が良好なことがあります。
Protocol V:中心窩を含むDMEでも視力20/25以上の眼では、厳密な観察を行い視力低下時に抗VEGFへ移行する戦略が、最初からafliberceptを行う戦略と比べ2年時の視力低下に有意差を示しませんでした。これは「DMEを放置する」のではなく、治療開始基準を決めたうえで最適な間隔で観察するという考え方です。
Protocol T:視力低下を伴う中心窩DMEでは複数の抗VEGF薬で平均的な改善が得られ、開始時視力が悪い群では薬剤間の平均効果に差がみられました。実臨床では薬剤の効果だけでなく、反応、投与回数、全身状態、費用などを含めて選択します。
Protocol S:PDRではPRPと抗VEGFはいずれも重要な選択肢です。抗VEGFはDMEを同時に治療できる利点がありますが、長期に注射・診察を継続できることが重要です。通院中断リスクが高い場合などはPRPの持続性が重要になることがあります。




網膜静脈閉塞症:抗VEGFで黄斑浮腫を治療しつつ、虚血と新生血管を見逃さない
2025年AAO RVO PPPでは、BRVO/CRVOに伴う視力低下の大きな原因である黄斑浮腫に対して抗VEGFが中心的治療です。一方、OCTで液体が減ることだけでなく、網膜虚血、新生血管、眼圧、全身の血管リスクまで確認します。
治療間隔は全員同じではありません。短い間隔で再発する眼、安定して延長できる眼、治療を中止して観察できる眼があり、反応に合わせて調整します。出血が減ることと黄斑機能が戻ることも同じではないため、OCTと見え方を合わせて評価します。


加齢黄斑変性:活動性新生血管型は抗VEGF、非滲出型は病期に応じた管理
2025年AAO AMD PPPでは、新生血管型AMDで抗VEGFが治療の中心です。OCTの網膜内液・網膜下液、眼底出血、視力変化などで活動性を判断し、投与間隔を調整します。
AREDS2系サプリメントは病期に応じて進行リスク低下を目的に検討するもので、すべての人に必要なわけではありません。片眼に進行AMDがある場合は反対眼も重要で、自宅で片眼ずつ見え方を確認し、新しいゆがみや中心暗点があれば早めに評価します。
文献を実際の診療へ当てはめるときの5つのポイント
- 研究対象と患者さんが同じとは限らない:年齢、病期、視力、既往が異なれば結果の当てはまり方も変わります。
- 平均値と個人差を分ける:「平均的に有効」でも反応は一人ひとり異なります。
- 画像所見と生活上の困り方を分けない:OCTだけでなく変視・読書・運転・両眼視を確認します。
- 治療しない選択には観察計画が必要:経過観察は放置ではなく、悪化時に治療へ移れる間隔で確認することです。
- 検査は多ければ多いほどよいわけではない:病期、活動性、治療反応に合わせた最適な検査間隔を設定します。
主な文献・診療ガイドライン
- American Academy of Ophthalmology. Retina/Vitreous Preferred Practice Pattern series, 2025.
- Idiopathic Epiretinal Membrane and Vitreomacular Traction PPP. Ophthalmology. 2025.
- Idiopathic Macular Hole PPP. Ophthalmology. 2025.
- Age-Related Macular Degeneration PPP. Ophthalmology. 2025.
- Retinal Vein Occlusions PPP. Ophthalmology. 2025.
- Baker CW, et al. DRCR Retina Network Protocol V. JAMA. 2019.
- Protocol T: anti-VEGF comparative evidence for DME.
- 有田眼科:網膜裂孔・網膜剥離の文献的考察(排液法・PFCL・ILM peeling)

