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糖尿病網膜症:病期と黄斑浮腫に合わせて検査間隔を決める

糖尿病網膜症では「検査回数を増やすこと」ではなく、病期・黄斑浮腫・治療状況に合わせて、治療が必要な変化を見逃さない間隔に調整することが大切です。

有田眼科監修患者さん向け更新 2026年9月13日
糖尿病網膜症でみられる点状・斑状出血の眼底画像
先に要点
  • 糖尿病網膜症は、視力が良く自覚症状がない段階でも網膜血管の変化が進んでいることがあります。
  • 糖尿病黄斑浮腫(DME)は網膜症のどの病期でも起こり得て、中心視力低下やゆがみの大きな原因になります。
  • 定期検査の目的は検査回数を増やすことではなく、病期・黄斑浮腫・全身状態に応じて「治療が必要な変化を見逃さない間隔」に調整することです。

なぜ「よく見えている時」から眼底をみるのか

糖尿病網膜症は、長期間の高血糖などによって網膜の細い血管が障害される病気です。初期には小さな毛細血管瘤や点状出血などがあっても、自覚症状がほとんどないことがあります。視力低下を感じてから初めて受診すると、すでに黄斑浮腫、広い虚血、新生血管、硝子体出血などが起こっている場合があります。

糖尿病網膜症でみられる点状・斑状出血の眼底画像
小さな網膜出血があっても、自覚症状が乏しいことがあります。
進行した糖尿病網膜症で大きな出血がみられる眼底画像
出血が増えても、視力への影響は黄斑浮腫や虚血の程度によって異なります。

糖尿病網膜症の病期をどう考える?

おおまかな段階主な眼底変化診療で重視すること
網膜症なし〜軽度明らかな異常なし、または小さな毛細血管瘤など全身管理を続け、眼底を適切な間隔で確認
中等度〜重症の非増殖網膜症網膜出血、静脈変化、虚血を示す所見など進行速度、黄斑浮腫、虚血を詳しく評価
増殖網膜症新生血管、硝子体出血、線維血管増殖など失明につながる合併症を防ぐため治療を検討

病期は単純に「出血が何個あるか」だけで決まりません。眼底所見、虚血、新生血管、黄斑の状態、過去からの変化を合わせて判断します。

糖尿病黄斑浮腫(DME)は病期とは別に確認します

糖尿病で血管のバリア機能が低下すると、血管から水分や成分が網膜内へ漏れ、黄斑がむくむことがあります。これが糖尿病黄斑浮腫です。DMEは軽い糖尿病網膜症でも起こることがあり、「増殖網膜症でなければ黄斑は大丈夫」とは限りません。

黄斑浮腫が目立たない黄斑OCT画像
黄斑浮腫の有無は視力だけでは判断せず、OCTで確認します。
軽度の糖尿病黄斑浮腫のOCT画像
網膜内に小さな液体貯留がみられます。
糖尿病黄斑浮腫のOCT画像
網膜内に液体がたまり、黄斑が厚くなっています。

OCTでは、網膜内の液体、網膜下液、黄斑の厚み、中心窩への影響、治療後の変化などを確認します。視力が同じでもOCT所見が変化していることがあるため、DMEの評価では視力とOCTの両方をみます。

どの検査を組み合わせる?

散瞳眼底検査・眼底写真では、出血、毛細血管瘤、硬性白斑、新生血管などを確認します。OCTでは黄斑浮腫と黄斑構造を評価します。虚血や新生血管の範囲を詳しく知る必要がある場合は、蛍光眼底造影やOCT angiographyなどを追加することがあります。

糖尿病網膜症の蛍光眼底造影画像
血流が低下した無血管領域や血管からの漏出を詳しく評価します。

造影検査では、眼底写真だけでは把握しにくい無血管領域や漏出を確認し、レーザー治療の必要性や範囲を考える材料にします。

定期検査は「多ければ多いほどよい」わけではありません

糖尿病の眼科検査で大切なのは、すべての人を短い間隔で何度も検査することではありません。網膜症の病期、DMEの有無、治療中かどうか、血糖・血圧・腎機能、妊娠、過去の進行速度などに応じて、必要十分な間隔に調整します。

状態検査間隔の考え方
網膜症がなく、全身状態も安定まず定期的な眼底検査を継続。正常所見が続き血糖管理が安定している場合は、ガイドライン上1〜2年ごとの検査を検討できることがあります。
軽度の網膜症少なくとも年単位で経過を確認し、全身リスクや眼底変化に応じて短縮します。
中等度以上の網膜症数か月単位を含め、病期と進行リスクに応じてより短い間隔で確認します。
DME・進行中の網膜症・治療中OCTや治療反応をみながら、週〜月単位から数か月単位まで個別に設定します。

2026年ADA Standardsでは、網膜症がなく、1回以上の年次検査で正常が続き、血糖指標が目標範囲にある場合には1〜2年ごとの検査を検討できる一方、網膜症がある場合は少なくとも年1回、進行中・視力を脅かす網膜症やDMEがあればさらに頻回な眼科診察が必要とされています。したがって「糖尿病なら必ず毎月」「異常がなくても短い間隔で永久に検査」という考え方ではなく、状態に合わせて最適化します。

毛細血管瘤・硬性白斑・虚血を別々に考えます

糖尿病網膜症では、最初に毛細血管瘤や小さな網膜出血がみられ、その後、血管からの漏出による硬性白斑、毛細血管が閉塞する虚血、新生血管へと変化していくことがあります。ただし、すべての眼が同じ順序・同じ速度で進むわけではありません。眼底写真で出血や白斑を確認し、必要に応じて造影検査で血流の乏しい領域や漏出源を評価します。

硬性白斑がある=すぐレーザー、ではありません

硬性白斑は血管から漏れた脂質成分が網膜内に沈着した所見です。治療の対象を考える際は、白斑そのものだけでなく、漏出している毛細血管瘤の位置、中心窩との距離、OCTでみた黄斑浮腫、視力、病変の変化を確認します。中心窩から離れた漏出性毛細血管瘤では局所レーザーを検討することがありますが、病変の位置によっては経過観察や抗VEGF治療など別の方針が適しています。

糖尿病黄斑浮腫は「網膜症の重症度」とは別の軸です

糖尿病黄斑浮腫は、網膜症がまだ軽い段階でも起こることがあります。一方で、眼底出血が多くても黄斑浮腫がほとんどないこともあります。したがって、糖尿病網膜症では「眼底全体の病期」と「黄斑のむくみ」を分けて評価します。見え方に直接影響しやすいのは中心窩に及ぶ黄斑浮腫ですが、中心から外れた浮腫でも拡大傾向がある場合は経過を丁寧にみます。

OCTでみるのは網膜の厚みだけではありません

OCTでは、網膜内液・網膜下液、中心窩の形、嚢胞状変化、硬性白斑に対応する高反射病変、硝子体や黄斑上膜による牽引などを確認します。厚みの数字だけで治療を決めず、どこに液体があるか、視細胞に関わる外網膜が保たれているか、治療前後でどのように変化したかを合わせて評価します。

増殖糖尿病網膜症では「出血する前」の治療判断が重要です

網膜の虚血が広がるとVEGFが増え、視神経乳頭や網膜に新生血管が生じることがあります。新生血管は正常な血管よりもろく、硝子体出血の原因になります。さらに線維血管増殖膜が収縮すると網膜を引っ張り、牽引性網膜剥離を起こすことがあります。新生血管や広い虚血がみられる場合には、汎網膜光凝固や抗VEGF治療を病状に応じて検討します。

急速な血糖改善が必要なときも、糖尿病治療は自己中断しません

長期間血糖コントロールが不良で、すでに網膜症がある方では、血糖が短期間に大きく改善する過程で網膜症が一時的に悪化することがあります。これは血糖を高いままにしてよいという意味ではありません。内科の治療を続けながら、眼科側で網膜症の程度に応じて確認時期を調整することが重要です。

検診の目的は「回数を増やすこと」ではなく、治療が必要な変化を逃さないことです

網膜症がなく安定している時期、軽い変化だけで長く安定している時期、黄斑浮腫の治療中、増殖性変化がある時期では、必要な診察間隔は大きく異なります。毎回同じ検査を機械的に繰り返すのではなく、眼底所見、OCT、治療歴、全身状態、これまでの変化に応じて検査内容と間隔を最適化します。安定例では受診負担を増やしすぎず、変化が出たときには間隔を短くして早期治療につなげます。

文献から考える

検診間隔は個別化する

糖尿病網膜症の検診は、網膜症の有無、進行、DME、全身リスクに応じて調整します。正常所見が続く一部の患者では検査間隔を延長できる一方、進行例では短い間隔が必要です。

ADA Standards of Care in Diabetes—2026 / AAO DR PPP 2025

治療は「黄斑浮腫」「虚血・新生血管」「出血・牽引」を分けて考えます

抗VEGF硝子体内注射

中心視力に影響するDMEでは、抗VEGF治療が中心となります。OCTで液体の変化を確認し、視力と治療反応をみながら注射間隔を調整します。

高度な糖尿病黄斑浮腫の治療前OCT画像
黄斑部が厚くなり、網膜内に広い液体貯留がみられます。
糖尿病黄斑浮腫の治療後OCT画像
治療後に黄斑のむくみが減少した一例です。治療反応には個人差があります。

画像は一例です。OCT上のむくみが改善しても、虚血や視細胞の障害などにより見え方の改善には個人差があります。

網膜光凝固

重症の虚血や新生血管を伴う場合などでは、網膜光凝固が重要な役割を持ちます。黄斑浮腫に対する治療と、増殖網膜症に対する汎網膜光凝固は目的が異なります。

硝子体手術

硝子体出血が長く残る、牽引性網膜剥離が黄斑へ影響する、線維血管増殖が強いなどの場合には硝子体手術を検討します。

眼だけを治療すればよい病気ではありません

血糖管理に加え、血圧、脂質、腎機能、喫煙など全身の血管リスクも重要です。急激な血糖改善が必要な方でも、眼の状態によっては網膜症の経過をより注意して確認することがあります。血糖治療を自己判断で緩めるのではなく、内科治療を続けながら眼科の観察間隔を調整します。

定期検査日を待たず受診したい症状

急な視力低下、中心のぼやけ・ゆがみ、黒い点や煙のような影の急増、視野の欠けは、DME、硝子体出血、網膜剥離などの可能性があります。予定された定期検査まで待たず眼底を確認します。

文献から考える

糖尿病網膜症は「病期」「黄斑浮腫」「視力」「通院継続性」を分けて治療判断します

2025年AAO Diabetic Retinopathy Preferred Practice Patternでは、糖尿病網膜症の重症度だけでなく、DMEの有無、視力、妊娠、全身状態、治療歴などを組み合わせて管理する考え方が整理されています。

中心窩を含むDMEでも視力が良好な眼について、Protocol Vでは最初から全例に抗VEGF注射を行う方法と、厳密に観察して視力低下時に治療を開始する方法との間で、2年時の視力低下に有意差は示されませんでした。観察群でも視力やOCTが悪化した場合に治療へ移行する設計であり、「検査しない」こととはまったく異なります。

視力低下を伴う中心窩DMEでは抗VEGFが中心となります。Protocol Tでは複数薬剤で改善が得られましたが、開始時視力が悪い群では薬剤間の平均的な効果差がみられました。PDRについてはProtocol Sなどから抗VEGFとPRPの双方が重要な選択肢ですが、注射継続が難しい場合、通院中断リスク、DME併存、虚血の程度なども実際の治療選択に影響します。

したがって糖尿病網膜症では、「とにかく頻回に検査する」より、現在の病期と変化速度に応じて検査間隔を設定し、治療が必要なタイミングを逃さないことが大切です。

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文献・診療ガイドライン

このページは、患者さん向けに理解しやすい表現へ要約しています。診断や治療適応は個々の眼所見によって異なります。

  1. Diabetic Retinopathy Preferred Practice Pattern® (AAO, 2025). 原典
  2. American Diabetes Association. Standards of Care in Diabetes—2026: Retinopathy, Neuropathy, and Foot Care. 原典
  3. 有田眼科「糖尿病網膜症」 原典
  4. 有田眼科「糖尿病がある方の白内障手術|糖尿病網膜症・黄斑浮腫」 原典

最終更新:2026年9月13日 医学的内容の確認:有田眼科 院長 有田量一

受診先を決める前に、症状の緊急性を確認。

急な飛蚊症・光視症・視野の影・急な視力低下では、早めの眼底確認が重要です。

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